2018年6月28日木曜日

「平穏死」のすすめ

治せる医師になりたい。

その思いで先端医療の血管外科に入り、命に係わるほどのオペを重ねて名医と呼ばれるようになった。病院の副院長を退いた後は世田谷の介護施設の配置医となるが、そこで見たのは延命ありきの医療と介護の悲劇だった。これは、一人の医師の自問と改革の記録。

「私は七〇歳から勤めはじめた芦花ホームで、人としての生き方を取り戻しました」

実はこの本、三年前に介護の資格学校に通いなれた頃、ベテラン女性講師が講義の合間に僕に手渡してくれたもの。「ちょうど読み終えたところなの。あなたにオススメよ」って。読んだら素晴らしいのですぐに妻とシェアしました。今働いている介護の職場でも、仲の良い上司の看護師に勧めたら評判がすごく良くて、理事長も推してくれて、施設で10冊購入して全職員で回し読みすることになりました。

誠実に対話を尽くす石飛先生。
僕は彼のように、愛するということを誠実な仕事として表す人が好きです。

介護の資格学校にて僕の講師だった特養勤務のベテラン女性介護士。
彼女の勧めでお借りして後にAmazonで購入した。
『「平穏死」のすすめ 口から食べられなくなったらどうしますか』
石飛幸三著 ISBN978-4-06-577464-2

2017年7月16日日曜日

蘇る変態

よくここまで自分の内面(エロ好き)をさらけ出せるな!というのが第一印象。本のタイトルも『蘇る変態』。こんなタイトルをつけられる勇気にある意味敬意を感じる。

そういう内容だけではもちろんなくて、星野さんの仕事への想いや孤独感、音楽業界への考えなどにも触れられる。

そしてくも膜下出血のこと。闘病生活について書く筆が冴えている。なんというか素晴らしいバランス感覚。つらい症状、術後の苦しさ、ストレスの多い入院生活。お医者さんや看護師さんとの笑えるやり取り、病気を通じて得たもの。そんな諸々を明るすぎず、でものびやかな心を通して読ませてくれる。

この本に限らず星野さんは言葉の選び方、合間合間のエピソードの入れ方がうまい。でも笑わせようとしているというより、いい感じに気が抜けていて自然体。おそらくそれは彼の音楽や演技にも言えることなんだろうし、人気の理由でもある気がする。

この人のこと嫌いな人っているのかな。

文 ちゆき


志津図書館で借りた星野源著『蘇る変態』

※ 以下ちゆきTwitterより(2017/07/03)
近くの図書館でいくつか本を予約しているんだけど、人気な本ばかりでどれも何十人待ち状態。

昨日図書館から電話があって、私の順番になったからメールで連絡したけど、エラーになってしまったとのこと。docomoを解約してUQモバイルにしたけど、図書館に登録してるアドレスの変更は忘れてた。

電話口でお礼とお詫びを伝え、「ちなみに(順番が来たのは)どの本でしょうか?」と聞いたら『蘇る変態』だった。

「星野源さんの本ですよね!」と明るく答えたけど、内心女性の司書さんに図書館の中でそんな言葉を言わせてしまったことを申し訳なく思った。。

星野源さんの本でも『働く男』とか『そして生活はつづく』とかなら良かったのに、と決して悪いことはしてないはずだけど恐縮してしまった昨日の夕方。

2017年2月15日水曜日

112日間のママ

最愛の妻を悪性乳がんで亡くしたニュースキャスターの手記。転移を告知するか、仕事を辞めるか、緩和ケアにするか、延命しないか。治療を支える夫として決断に悩む清水健さんの切実な言葉に引き込まれます。

今このタイミングで妻とシェアできてよかったと思う。第二子が生まれたばかりの僕ら夫婦には感慨深い話だった。もし自分たちが同じ運命に置かれたらどうするか?病と死、生きることへの願いと選択。その実録は、今愛する誰かのために悩んでいる人に寄り添うような、優しい問いかけにもなっている。

『巻末の写真ではどれも奈緒さんが本当に幸せそう』と妻の感想には綴ってあった。本当にその通りの素敵な写真たち。このまま、この二人に生きる未来が続いて欲しかったな。

"僕らの選択は、僕らにとっては「正解」だった、誰になんと言われようとも。そして、こういう「夫婦の選択」があった、ということをひとつの参考にしていただければと、切に願います"



妻が志津図書館で借りた『112日間のママ』
清水健 著 (小学館 2016/2/13)

2017年2月4日土曜日

112日間のママ

奈緒さんの強さに驚いた。妊娠初期に乳癌とわかり、どれほどショックだっただろう。出産を強く望み、周りを思い弱音を吐かず、ずっと笑顔で過ごされた。

そして本当はどれだけ苦しく心残りだっただろう。112日間のママ。私の息子も現在3カ月。これからの成長をご主人と見ていきたかったはず。その心情を想像するだけで切ない。

清水さんは「自分ばかり弱音を吐いてしまった」と書かれているけれど、彼もどれほど悩み苦しんだだろう。奥様の病気を少数の人にしか明かさず毎日キャスターとしてカメラの前に立ち続けた。奈緒さんの治療では大事な選択の度に葛藤し、「スイッチ」を押す。

最期の場面では何枚ティッシュを消費したことか。お互いを心から思いやる、強い絆で結ばれたご夫婦だ。

巻末の写真ではどれも奈緒さんが本当に幸せそうで、とても素敵な女性だと一目でわかる。

当たり前のように感じてしまっている家族の存在と日常を大事にしなければと感じた。

志津図書館で借りた『112日間のママ』
清水健 著 (小学館 2016/2/13)
文 ちゆき

2017年1月30日月曜日

時をかけるゆとり

読みながら何度も吹き出してしまい、夫に不審がられた。

失礼ながら、ひとつひとつのエピソードは本当にくだらない。けれどそんな出来事に対する朝井リョウ氏の観察眼やフレーズが冴えまくっていて、つい笑ってしまう。

特に驚きを表現するときや彼自身につっこむときの表現が最高。それまでの文章から1行空けて「違った!!」「煮え切らない!!」のようにそのときの心情が実によく伝わるモノローグを入れてくる。あと、

「…してもらってr」

「僕が代わりに授業出ますから」

のように、会話が分断されるときの英小文字は視覚的にも楽しい。

小説でも朝井氏の文章には惚れ惚れとしてしまうことが多いが、エッセイでは彼のダサさ(いい意味で)をより面白く伝えてくれる。

個人的に特にウケたのは『便意に司られる』『ダイエットドキュメンタリーを撮る』『黒タイツおじさんと遭遇する』。

有益とは言いがたいがどのエピソードも笑いを与えてくれる、おすすめの1冊。


志津図書館で借りたエッセイ『時をかけるゆとり』文藝春秋
朝井リョウ著 (2014/12/4)
文:ちゆき


2016年1月9日土曜日

世界が変わるとき、変えるのは僕らの世代でありたい。

家庭教師で中学生の男の子を教えた話。

「じゃあ数学の証明問題やろうか

「…先生、なんか眠いです。まだ冬休みモードが抜けないみたいです。やる気が出ません。すいません!」

「よし、朗読だ!英語の教科書は?」

「え、英語ですか。じゃ、じゃあ、やっぱり証明やります」

「わかったよ。国語だ、本読もう!そうだなぁ…この本の…このページにしよう」

「あ、この人の本面白いですよね。家入一真さんでしたっけ。そうそう、そこ面白かったです」

「はいどうぞ」

「えーと。僕らは、義務教育で、勉強をして、いいところに進学すれば幸せになると言い聞かせられてきた…」

「あ、最後のでか文字は、ちゃんとそのテンションで読んでね」

「ハハ、わかりました!任して下さいっ」

すーっ(息を吸って)

『オマエラ、これが人間にとっての幸せだから、何も考えず勉強して、卒業したら黙って働け!ってね。幸せの押し売りだっつーの!!』

二人共最高に笑った初指導でした

ファンキーな写真と飾らないメッセージが楽しくて衝動買いした『世界が変わる時、変えるのは僕らの世代でありたい。』
家入一真著

2015年12月25日金曜日

塔の上のラプンツェル

主題歌 "I see the light" が名場面すぎて、二人が手を取りあってデュエットした瞬間はぞわっとした。男と女に確信が満ちる。物語に必然が宿る。美しい音楽と映像。パーフェクトだ。

「私も渡す物があるの。もっと早く返さなきゃいけなかったけど、なんだか怖くて。だけどね、今はもう怖くない。なぜかわかる?」

ラプンツェルは、好きになってしまったゆえの不安を打ち明けながらも、ユージーンの愛を疑わない。可愛らしくて強気な告白。真っ直ぐ見つめながら伸ばした彼の手は、差し出されたティアラの入った鞄を優しく下げる。

「わかる気がする」

完璧に通じ合う二人。

独り塔の中から憧れてた外の世界。
ずっと見たかった誕生日に空を飛ぶ光。
夢を叶えた特別な夜。

二人を巡り会わせた美しい景色は、本当の親である国王夫妻と国民が飛ばしていた無数の灯篭の明かり。ラプンツェルの無事を祈り、帰りを願う人々の輝きだった。

いい大人がキュンキュンした。

TSUTAYAで借りて家族でハマり、妻がAmazonで買った『塔の上のラプンツェル』
ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオ
音楽アランメンケン 2010年公開

2015年12月18日金曜日

北風と太陽

皆大好きイソップ寓話『北風と太陽』。私も証券会社に入ったばかりの頃、営業の心得として上司から聞かされた。

北風と太陽が言い争いを始めた。どちらも強いのは自分の方だと譲らない。
じゃあ勝負しよう。男のマントを引き剥がした方が勝ちね、と北風。でも全然上手くいかない。
今度は私の番だ、と太陽。
ギラギラと照りつける。これはたまらん、と長靴を脱いでも上着の袖を捲っても暑い。
ジリジリと背中を焦がす。男はもう我慢出来ない。木陰で一休みしようとマントを脱いで草の上に置いた。
「私の勝ちだね」と太陽は言った。
「ね、わかっただろう。人は力より、優しさに心を動かされるものなんだよ」

なんじゃこりゃ。優しさがどこにある。俺のが強いぞーって自己顕示欲のまま力技使って的外れな説教かよ。

もしポカポカと心地よい暖かさで男の服を脱がせ、「人の思いを理解するのも強さだよ」と勝ち負けなしに北風に微笑んだら、さすが太陽〜ってなったのにね。

志津図書館で借りた『きたかぜとたいよう』
絵バーナデット 訳もきかずこ
西村書店 ISBN4-89013-858-7

2015年12月16日水曜日

マッチ売りの少女

もしも少女が「マッチを買って下さい」ではなく「誰か助けてください」とお願いしていたら、寒空の下で死ぬことはなかったのではないだろうか。

そんな鋭い指摘を『マッチ売りの少女を殺したのは誰か』という坂爪圭吾さんの記事で見かけ、原作を丁寧に翻訳した絵本を探して読みたくなった。

降雪の大晦日なのに壊れた窓を修繕できない生活。暴力を振るう父親。逃げた母親。唯一自分を愛してくれたおばあちゃんは死んだ。絶望的な家庭崩壊と孤独がさらりと示されている。

あぁ、少女は、生き永らえたいと思わなかったんだ。あまりに恵まれなさ過ぎた。その小さな人生は、少女に、生きたいと思わせることが出来なかったんだ。

大好きなおばあちゃんの幻を、マッチ全ての灯で引き留めたかった。幻が消えるなら、祖母のいる世界へ私も一緒にと、生命力の全てを以て懇願した。少女は幸せそうな美しい微笑みを浮かべて逝く。

目を閉じて「おやすみ」と祈りたくなる物語。

志津図書館で借りた『マッチうりのしょうじょ』
作クリスチャン・アンデルセン
訳やなぎや けいこ 絵アナスターシャ・アルチポーワ
ドンボスコ社 1996/10/1

2015年12月10日木曜日

「平穏死」のすすめ

介護資格を取りに通っていた頃。ある日の講義の合間、特養で働くベテラン女性講師に「今日読み終わったとこなの。おすすめだよ」と手渡された本が『平穏死のすすめ』でした。

著者の石飛さんは、長年続けた血管外科医を引退して、世田谷にある特養芦花ホームの常勤配置医として働き始めた。しかし胃ろうをはじめとする延命ありきの医療・介護によって、老衰の終末期を迎えた体に不自然な負荷と苦痛を与えてしまうことに根深い問題を感じる。職員と利用者の家族の心に寄り添いながら、関係者の本当の願いと怖れに向き合う対話を重ねていく。医師としての経験を背景に、施設改革の経緯と看取りの事例を挙げながら、ターミナルケアのあり方を問いかける。

「医療技術の進歩と延命主義による自縄自縛の悲劇をそこに見た思いでした」

自身のオペの訴訟体験も述べつつ、医療の現実を語る言葉は真に迫る。今働いている老健でも十冊購入して職員の間で読み回しています。

千葉市の特別養護老人ホーム勤務の女性介護士に借りて
後にAmazonで購入した『平穏死のすすめ』
石飛幸三著 ISBN978-4-06-577464-2